極私的エロス・恋歌1974

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極私的エロス・恋歌1974

60年代後半~70年代前半にかけて世界中で、女性性をラディカルに問い直す運動が巻き起こった。女は侵略に向けて子供を産まない育てない――そんな激しいスローガンを掲げたウーマンリブの運…

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本編

極私的エロス・恋歌1974

極私的エロス・恋歌1974

  • 93分 
  • 2日間 330 pt 〜

全裸の臨月の女性が、こちらを真っ直ぐ見ている。今は「元妻」となった武田美由紀を、正面・背中、そして横から捉えた、原一男によるスチール写真だ。 原は返還前後の沖縄に降り立ち、武田を訪ねる。彼女は「すが子」と呼ばれる女と暮らしていた。「何も言えんのか」「テメエの事も分からんのか。はっきりしないじゃないか。何で嫌気さしたんか」「うるせえクソガキ」ひたすらすが子を罵倒する、武田の姿がそこにはあった。原の訪問が決定的な亀裂を走らせたのか、二人の生活は終わりを迎える。 在沖縄米軍基地から解放された黒人たちが陽気に踊る<バー銀座>。そこに、見事なアフロヘアに長くてカールしたつけまつ毛の14歳の少女・チチがいる。彼女は黒人との子どもを妊娠していた。武田は言う。「解放感より戦慄感の方がずっと強い。私生児に徹しきるよ、野性児にするぞ。そんなガキがいいさ」「これは二年前からの約束だけど、私がひとり出産するところを原くん、フィルム撮っといてね。アンタに出産の場面を見せたいのさ」そう武田は言い放つ。 東京に戻った原のもとに、武田からの手紙が届く。沖縄の男との子どもを妊娠しているという。原はふたたび沖縄に飛んだ。武田はすでに沖縄の男と別れ、ポールという黒人GIと同棲していた。男性による女性支配への反発、ポールへの不満を並べ立てる武田を前に、原はいら立ちを隠せない。「じゃあ要するにポールって人間が、好きなんだな?それならなんでそこに、黒人って問題が出てくるんだよ!!」「じゃあポールとの間に、白いガキが生れてくるか!!」武田にマイクを向けながら、原は泣いてしまう。その姿を見た武田は言う。「……なんで泣く?」 現在の恋人・小林佐智子と一緒に原は、三度目の沖縄へ向かう。「武田さんとちゃんと対峙できなかったら、私はイヤなわけ」マイクを持ちながら小林はそう、武田に宣言する。「口だけは上手いからね、この男は」「アンタだけじゃないのに、これ(原)が寝た女は」「これと一緒に仕事することは、出来ないね」「まあいま惚れているアンタには、分かんないね」武田は原のダメさを列挙する。 白いシーツの上で、武田が喘いでいる。カメラをかついだ原は腰を動かしながら、行為のさ中の彼女の表情を、撮りつづける。ゆっくり上下するカメラ――呆けた表情でカメラを、すなわち原に注がれた眼差しが、美しい。 武田は沖縄を去ることを決めた。沖縄への想いを綴ったビラをAサインの女に配りたい。そう考えた武田は幼な子・零の手を引き、夜のコザを歩く。 沖縄を離れる日がやってきた。武田は零を抱きフェリーに乗っている。錨が上がる、汽笛が鳴る、島が遠ざかってゆく。甲板で潮風に吹かれる母子――。 東京の原のアパートで武田が、陣痛の痛みに苦しんでいる。畳の上にビニールと新聞紙が敷かれている。赤ん坊の頭がゆっくり、この世界に姿を現す。そして……産声が響く。「赤ん坊だぞ、女の子だぞ。ヒヒヒ」大仕事を終えた母親の表情で、武田が言う。「遊」の誕生だ。その声を小林が、マイクで拾っている。「次は小林さんの番だからね」 母親に「遊」の誕生を報告するため、ダイヤルを回す武田。「母ちゃん?ひとりで産んじゃった私。女の子、混血だわこれ。まあしょうがないがね、こういう事もあるよ」 武田と女性たちの共同生活する部屋で、今度は小林が出産の日を迎えている。苦しむ小林を見守る武田と女性たち。そして――原と小林の子ども、「風実」が生れた。 1974年、女と子どもの共同体「東京こむうぬ」に零と遊、そして風実の姿がある。「子を産む」と「コミューン」を合わせて「こむうぬ」。ぎゅうぎゅうになって狭い風呂に浸かり、はしゃぐ子どもたち――「今日はガキと一緒に、明日はあの人(「あの人」に傍点)と一緒に。いちばんゼイタクな事や」アフロヘアをオールバックにし、フェイク・ファーで決めた武田が仕事に出掛けていった。 キャバレーの舞台で、明滅するスポットライトを浴び、武田が激しく踊っている。