登録して視聴ポイントとおトクなクーポンをゲット!今すぐ無料トライアル全身小説家原一男と小林佐智子の二人は、神軍平等兵・奥崎謙三に次ぐ強烈な“スーパーヒーロー”を、探し求めていた。そんな時に小林は、作家・井上光晴が開講している伝習所生の鈴木郁子と出逢う。『書か…映画ドキュメンタリー邦画ヒューマンドラマ1994年日本お気に入りに登録作品情報シェアXFacebookLINEURLをコピー
全話全身小説家157分 2日間 330 pt 〜主宰する<文学伝習所>の生徒が書いた小説を、舌鋒鋭く批判する。その生徒たちや親友の埴谷雄高らと自宅の応接間で酒席を催す。旅回りの芸人に扮し、<津軽海峡冬景色>に乗って舞台でストリップを披露する。文壇バーでピアノの鍵盤を叩き躍る――作家・井上光晴のそんな姿を、映画は点描してゆく。そして伝習所に通う女生徒たちは、頬を紅潮させながら、「先生」とのアバンチュールを仄めかす……。 かかりつけ医から勧められ井上はある日、東大病院外科の門を叩く。診察室でレントゲン写真を指し示しながら医師は、井上がS字結腸ガンであると告知する。それでも井上は文学伝習所の講義や講演で全国各地を回り、野間宏と「部落解放文学賞」の選考に当たる。そして幼少時を過ごしたという佐世保の元炭鉱町・崎戸を訪れるなど忙しい日々を送っている。 ふたたび井上は、東大病院で検査を受ける。ガンはさらに進行していた。1/4だけ肝臓を残し、患部を摘出する手術を提案する担当医師。井上は手術を受けることを決める。 手術当日、開口された井上の腹からガン細胞に冒された肝臓が、手際よく摘出されてゆく。 病後の経過を確認するため、井上光晴の病室を訊ねる医師。井上の腹部を縦に貫く縫合の跡が痛ましい。親友・埴谷雄高、元恋人の瀬戸内寂聴が、病床の井上の見舞いに訪れる。 生前に井上が墨書した島の地図を手に原は、井上の故郷・崎戸に向かう。炭鉱夫に給料が支払われる「受け銭」の日。色鮮やかなチョゴリで身を飾り、鉦や太鼓で踊りながら海辺を練り歩く、韓国人の娼婦たち。その一人が初恋の相手である。あるいは早くに父親を亡くし、極貧の少年時代を過ごした。井上の親戚縁者に取材し、戸籍謄本にまであたる。調査中が進むに従って、これらの井上の言葉が虚構だらけだった事が、次々に明らかになってゆく。しかしたとえば埴谷雄高は、“嘘つきみっちゃん″だからこその井上の魅力を、埴谷雄高は語る。「文学は言ってしまった者が勝ちなんですよ、適切に言えば。だって千年たったら分かんないですよ、あなた。だからよく嘘をついてくれたと、僕みたいに面白がっていればいいんですよ」 自宅療養を選んだ井上の自宅に瀬戸内寂聴が、プロポリスを販売する気功師を連れてやってくる。「全く説得力を失った、しゃべり言葉なんですね」井上は苛立ちを隠そうとしない。 1992年5月30日、井上光晴死去。享年66. 「男性と女性はセックス抜きの友人関係を築くことは、困難だと言われます。しかし、私とあなたはその稀有な関係を築くことができました……」築地本願寺で行われた井上の葬儀。その壇上で滔々と弔辞を読む瀬戸内寂聴の姿があった――。
作品紹介原一男と小林佐智子の二人は、神軍平等兵・奥崎謙三に次ぐ強烈な“スーパーヒーロー”を、探し求めていた。そんな時に小林は、作家・井上光晴が開講している伝習所生の鈴木郁子と出逢う。『書かれざる一章』『ガダルカナル戦詩集』『虚構のクレーン』などの作品で知られる井上は埴谷雄高、野間宏らと共に、戦後派の旗手として活躍した作家の一人だ。鈴木からその井上の講演に誘われた原と小林は、新宿紀伊國屋ホールに出かける。よく通る声と話術で、聴衆を捉えて離さない。原と小林は天性のアジテーター・井上光晴に、強く惹かれる。「井上光晴を撮りたい」そんな気持ちが二人の中に芽生える。原は、井上原作の『地の群れ』(70)を映画化していた監督・熊井啓の仲介で、井上を『ゆきゆきて、神軍』の試写に招く。一方、紀伊國屋での講演会以来文学伝習所に通うようになった小林は、井上がガンに冒されている事を知る。原と小林は、井上の自宅を訪ねる。「考えながら撮り、撮りながら考えたい」そう懸命に想いを告げる原に、井上は答える。「(僕の)ストリップくらいなら、撮っていいですよ」