キューポラのある街

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キューポラのある街

鋳物工場から吹きあげる煤煙でこの町の空は暗い。そして、その下に生る貧しい人たちの心はもっと暗い。しかしその中にもなお明日への希望に向って雑草のように根強く育ちゆく若い力がある。この…

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キューポラのある街

キューポラのある街

  • 99分 
  • 3日間 330 pt 〜

東京の北の端から荒川を渡ると、鋳物の町として有名な埼玉県川口市がある。銑鉄溶解炉キューポラやこしきが林立するこの町は、昔から鉄と火と汗に汚れた鋳物職人の町である。 石黒辰五郎も、昔、怪我をした足をひきずりながらも、職人気質一途にこしきを守って来た炭たきである。この辰五郎のつとめている松永工場には五、六人の職工しかおらず、それも今年二十才の塚本克已を除いては、中老の職工ばかりだった。それだけにこの工場が丸三という大工場に買収され、そのためクビになった辰五郎ほか二三人の職工は翌日から路頭に迷うより仕方なかった。克已は松永の経営上の失敗を責めたが、松永にそんな詰問がこたえるはずもなく、辰五郎さえも、義理だ、人情だ、親分さんだと松永の肩をもつのだった。 辰五郎の家は、妻トミ、長女ジュン、長男タカユキ、次男テッハルの五人家族で路地裏の長屋に住んでいた。辰五郎がクビになった夜、トミはとある小病院の一室で男児をうんだが、辰五郎はやけ酒を飲み歩いて病院へは顔も出さなかった。却って克已とジュンが大張切りで介抱につとめた。ジュンは土性っ骨のある少女だった。運動神経もあり、成績もよく、高校進学も志していた。 弟のタカユキも一寸した餓鬼大将で、サンキチ、ザクなどという友達とグルになって陽を飼い、卵の売買でチョロチョ口稼ぎ、イキがって映画をおごってやることもあるといった少年だった。 その后辰五郎の退職の涙金も出ず石黒家は苦しくなっていった。ある晩、夕カユキのトレパン購入のことで家中が大騒ぎとなり、タカユキは辰五郎の罵声をあとに家出し、サンキチのアバラ屋へ逃げこんだ。ところが辰五郎は、サンキチとつきあうことが不愉快でならなかった。サンキチの父が朝鮮人だからだった。ジュンはいつも父の不見識を責めていたが、この夜もあわや一触即発の事態だった。そこへ、克已が来た。克已は丸三の組合委員長に辰五郎の公傷手当と退職金をかけあって来たのだった。だが辰五郎は「職人がアカの世話になっちゃー」の一点張り。これにはトミも唖然となるばかりだった。 タカユキはサンキチと北鮮問題や戦争のこのなど話し合いながらコオロギ島の穴のなかで二、三日過したが、ジュンが迎えに来ると、喜んで家に引きあげた。タカユキは心から姉を慕っていた。こんなこともあったタカユキが、鳩のヒナのことで、開田組のチンピラたちにインネンをつけられた。それを知ったジュンは敢然とチンピラたちの本拠へのりこみ、罵倒を浴びながらもタカユキをすくい出して来た。タカユキはづくジュンに感謝した。貧しくともこの姉弟の心のなかには輝しい未来の灯があかあかと燃えていた。 辰五郎の職は、なかなかみつからなかった。母のトミは働きに出るといい出すし、赤ン坊はうるさいし、ジュンは思うように勉強も出来ない。そんなある日、辰五郎が酔いつぶれて帰って来た。そのポケットからオートレース予想新聞と、数枚の千円札が出て来たのを見たトミは、辰五郎の頬をなぐり、ベソをかいて坐りこんでしまった。わずかな退職金はオートレースにつぎこまれてしまったのだ。そんなところへ、ジュンの親友ノブコが辰五郎の職がみつかったと知らせに来てくれた。ノブコの父は小さいながら会社を経営していた。 辰五郎の新しい職場には新しい技術が充満していた。 辰五郎の職人気質は勘を否定する若い工員の態度に我慢出来なかった。だが父親の就職で、ジュンも息をついた。たとえ市から補助費をもらってゆく修学旅行でも、父の就職で一層待ち遠しいものになった。 だがつとめ始めて半月しかたたないというのに、辰五郎は馬鹿馬鹿しくて会社なんかゆけるかと床の中で酒を飲み始めた。しかもそれはジュンの修学旅行の朝だった。辰五郎には新しい技術がシャクでならなかった。トミ、ジュン、タカユキたちの必死の説得も甲斐がなかった。ジュンはトミにすすめられ、悲しい思いで駅に向ったが、その足は荒川土手の方へむいていた。ジュンは一日中街をさまよった。 夜が来た。ある町角の飲み屋でトミが男たちと嬌声をあげて酔っているのを見た。ジュンは不良の級友リスに遇った。そしてバーへつれてゆかれ、いつかのチンピラたちに睡眠薬をのまされてしまった。このときはは危機一髪のところで克已が刑事を透導して来て助かったが、それからジュンは学校へゆかなくなってしまった。 それでも野田先生の温情がジュンを学校へよびもどした。貧乏、人間、そして大人の世界.........ジュンの人生に対する懐疑は深まった。そんなとき、ヨシエが北鮮へ帰ることになった。 川口駅前の歓送会場。タカユキとサンキチとの別れは鳩をめぐっての男らしい別れだった。母の美代もサンキチに気ずかぬように物蔭で手を振った。ヨシエは新しい希望に燃えて、ジュンと手をにぎりあった。汽車は動き出した。だがサンキチは母が恋しくてならず大宮駅で父とヨシ工の許しを得て、泣く泣く川口へ帰って来た。 サンキチはタカユキと相談し、美代にみつからないように頬かむりして新聞配達を始めた。風のたよりに聞けば、美代はどこへか嫁にいったらしい。それでもサンキチは生きぬく意欲にあふれていた。 石黒家にも春がきた。克已の会社が大拡張され、長五郎は克己の世話で、その工場へゆくことになったのだ。ジュンも昼間の高校はやめ、働きながら夜間高校へ進む決意をした。克已にはこの一家の喜びが、わがことのように思えてならなかった。 石黒家は久し振りの笑い声がいっぱいだった。

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