愛の渇き

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愛の渇き

これは、「執炎」「夜明けのうた」に続いて、浅丘ルリ子、蔵原惟繕監督のコンビが文壇の鬼才三島由紀夫の原作により描き出す現代女性のもつ愛への心理の葛藤と、その異常な断面を独特な演技展開…

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本編

愛の渇き

愛の渇き

  • 99分 
  • 3日間 330 pt 〜

杉本悦子は夫の良輔の死後も、ずっとこの杉本家に住みついていた。それは、いつしか義父でやもめの弥吉とある関係ができてしまったからでもあった。 杉本家ーーそれは、まことに不思議な一家である。はるかに大阪城の天守閣をのぞむ阪神間の大きな土地に農園や温室をもち、そして広い邸宅の中に、引退した元実業家の弥吉、長男で道楽半分に大学でギリシャ語を教えている謙輔と妻の千恵子、長女で結婚に失敗し、二人の子供を連れて帰ってきた浅子、園丁の青年三郎、女中の田舎娘美代、そして悦子が住んでいた。謙輔夫妻は、まだ子供もなく、現状に満足して、相かわらず親のスネかじり同様の生活を送り、浅子もこれといったあてのない毎日の連続だった。一応は、食うには事欠かぬ安易さが家庭の中をぬるま湯の雰囲気におしつつみ、そんな中で、悦子もいつの間にか弥吉の妾とも何ともつかぬ関係に落ち入っていったのも無理からぬことだったろう。 悦子は、かつて求めていた愛"のすべてを失い、その心は渇ききってしまったのである。 その彼女が、ある日ふと心を動かしたのは園丁の三郎だった。若いが、田舎出らしいひきしまった身体つき、粗野で黒くやけた皮膚に大きな目......それは、悦子のいる世界とは明らかに異質なものだったが、何かしら彼女の渇いた心に新しい湧水をもたらしてくれるようにも感じたからだった。彼女は、デパートに買物に出たついでに、地味な靴下を買って、三郎に与えた。しかし、彼はすぐはこうとはしなかった。納屋で三郎がニワトリをつぶしたとき、それを見た悦子は急に失神して倒れた。あたりにだれもいないことを知ると、三郎はそっと悦子の胸をはだけ、唇を近づけていった。悦子は、これのためわざと失神したのかもしれない。が、間まなくやってきた美代に邪魔されてしまった。 悦子と良輔の愛のない結婚は、はじめから不幸だった。彼子は何度も実家に帰ろうとしたが良輔にはばまれた。暴君だった良輔は、悦子のほかにも女をつくり、そこで急病をおこして死んでしまった。それは絶望した悦子が、毒薬をあおろうとしたせつ那でもあった。こうして彼女の心の渇きがはじまったのだ。 悦子は棄てられている例の靴下を見つけた。問いつめた三郎を、泣きながらかばったのは美代だった。三郎と美代の間に、ある感情がも之出ている。悦子は女の直感でそう感じとった。 近くの神社の夜祭がはじまった。地元の若い男たちが、半裸で獅子をもみ合うのだ。大群集にもまれて倒れかけた悦子は夢中で傍の若者の背に爪を立てて赤い血をほとばしらせていた。その男は、三郎だった。一方では、美代が見物中、貧血で倒れていた。診察すると、何と妊娠しているのだ。 怒った弥吉は家族会議を開いた。幼させた相手は三郎らしい。弥吉は、二人がこのまま結婚するなら不問にしようと結論を出した。悦子は三郎にこのことを問い正した。彼は事実を認めたが、愛情から出た行為ではないといった。悦子は驚いたが、とにかく結婚することを説いた。三郎は、翌日奈良の親もとに相談のため帰っていった。 しかし、悦子はたまらないことが一つだけあった。美代のお腹の中の子供だ。「許せないわ、不潔でいや!」思いつめた悦子は、強引に美代を連れて医者の門をくぐった。胎児は始末されてしまった。すると、美代の態度がガラリと変った。三郎との結婚もやめ、郷里へ帰るというのだ。結局、美代は多額の金を受取って、悦子を恨みつつ去っていった。悦子は、美代からも愛をうばってしまった。 三郎が帰ってきたが、彼は親たちからその結婚に反対されたことを告げると、いつものように働らきはじめた。一方では、弥吉は農園を売り、悦子を連れて東京に出てゆく計画を立てていた。その東京行が数日後にせまって、たまらなくなった悦子は、三郎に夜中の一時に農園の中で話したいことがあるから来てくれといい渡した。悦子は、せっぱつまった自分の気持を、このときどっちかの方向にハッキリさせたいと願ったのだ。 夜、家族の送別会がはじまった。謙輔夫妻は、ここに残るのだが、もう生計の道は立たない。ヤケになって酔い騒ぐ謙輔。浅子も大阪で働らく決心をきめた。皆の心はもうバラバラにくだけ散っている。広い邸内に、音楽が狂い泣き、人間の空虚なうめきがそれに和していた。そして夜中が来た。 悦子は指定した場所で三郎と会った。彼女は心の渇き―――苦しみを三郎に訴えた。が、苦しんだり、傷ついたりしたのは結局自分一人だけだと知ったとき、三郎の強い力が、唇が彼女の唇をおおった。「これは愛ではない、美代を妊娠させたただの男の暴力だ」裏切られたことを知った悦子は、三郎を殴ると帰ろうとした。しかし、三郎は兇暴な目で悦子をしめあげ、服をやぶろうとした。悦子の悲鳴。 弥吉がこれを聞いて、傍の鍬を手にかけつけてきた。ハッと思わず手をはなす三郎。 が、ふるえて手を出せない弥吉の姿に激怒した彼女は、いきなり鍬を奪うと、三郎の肩にうちおろした。その白い はがねは三郎の首筋を、頭蓋を血しぶきとともに斬りさいていた。三郎は絶命した。呆然とする弥吉。 悦子は穴を堀って、三郎の死体を埋めた。「もうだれも私を苦しめない」悦子はすべてが終ったのを知った。彼女は弥吉に別れをつげると、血のように赤い朝やけの道を、渇ききった心のまま歩きつづけた。すべてを自分で始末するために……。

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