硝子のジョニー・野獣のように見えて

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硝子のジョニー・野獣のように見えて

これは、エースのジョー、アイ・ジョージ、芦川いづみの顔合せで、変わることのない人間の孤独を描き出す異色の話題作である。 ジョー、アイ・ジョージ、芦川の体当り演技が大自然の北海道を舞…

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本編

硝子のジョニー・野獣のように見えて

硝子のジョニー・野獣のように見えて

  • 106分 
  • 3日間 330 pt 〜

荒波一つへだてればソ連領というここさいはての地、北海道稚内にも真夏の太陽がギラギラと照りつけている。 僅かばかりのコンブ採集に生計を托すこの部落では、娘を売りでもしなければ死ぬより他はないほど生活に追われている。 今日も四、五人の娘たちが秋本というエネルギッシュな男に買われていった。 深沢みふねもそのなかの一人だった。娘たちは家のためにというあきらめの表情を浮かべていた。しかしみふねの心には『きっとジョニーが助けてくれる』というかすかな希望が残っていた。 数日後、どきつい化粧に派手なブラウスを着た二人の娘が逃げていた。みふねとよしえである。しかし秋本の執ような追っ手によしえは掴まってしまいみふねだけが辛うじて列車に飛び乗ることが出来た。 みふねは、その列車のなかでジョーという男を知った。 大酒を飲み、野獣のようにわめき、そして宏という少年に夢中になるジョー。そんな変ったジョーを見ているみふねの顔は何故か、実に倖せそうだった。 やがて列車は函館に着いた。ジョーは左をせきたてるとみふねには一べつもくれずに降りていった。みふねは見え隠れにジョーの後を追った。泥だらけの顔、年頃の娘とも思えぬ姿に道行く人々はふりかえるのだったが、みふねの瞳にはジョーの姿しか写らなかった。 『おい、なんでオレのアトをつけるんだ!』みふねにつきまとわれるジョーは、脅かしたり、なだめたりしてみふねから逃れようとしたが、みふねが栄養失調で倒れたことから面倒を見る羽目になった。 『蓄生!ついてねえや』とわめくジョーであったが、さっぱりした浴衣に着かえた湯上りのみふねの美しさに唾然とするのだった。 欲望をかりたてられたジョーは、その晩みふねを襲ったが、あきらめて自分から帯をほどくみふねのすきとおるような眼に溢れんばかりの涙を見て、馬鹿野郎出ていけと呼びつつ泥酔して物干台にぶっ倒れた。 翌朝、土砂降りの雨に目をさましたジョーは、びしょ濡れになって自分に傘をさしているみふねを見つけ『なんて野郎だ手前は!』と怒鳴りながらも、眼頭の熱くなるのを抑えることが出来なかった。 数日後、カラリと晴れあがった競輪場では『さあさあ、一本書のジョーさまの予想だ』と怒鳴り散らすの姿を、その傍でニコニコしているみふねの姿が見られた。 『ジョーさんも変った人だよ』とぐちをこぼす屋台店の由美は、ジョーに心から惚れていたが一流の競輪選手にしようと宏に夢中になるジョーに煮えきらない思いを抱いていた。 ジョーは予想の売り上げを宏につぎこんだが宏は着外になり、みふねに慰められる始末。その晩、ジョーは宏から五万円作ってくれと頼まれて借金に歩き廻った。『競輪をやめれば借してやるよ』という由美、『みふねさんをよこせば』というやり手婆のおきく。『担保がなければね』という昔助けてやった質屋の親爺。いづれもジョーの気に食わないものばかりだった。 『一本穴をあけりゃ』とレースに血眼になるジョー。そのジョーに代って予想台に立つみふね。楽しそうに喋るみふねの顔に一瞬恐怖の色が浮かんだ。秋本が現われたのだ。 ジョーと秋本は対決した。みふねを金で買った男に憎しみを憶えるジョー、自分を裏切った女を連れ戻す執念につかれた秋本。二人の男はみふねを奪おうと殴り合った。 僅かばかり力の勝ったジョーはみふねをつれると逃げ去ったが、目にも入れて痛くない宏への用立てに、目のくらんだジョーはみふねをおきく婆に売り渡すのだった。 みふねをだまして売り飛ばしたジョーだったがそれに対する報酬は、宏の女と駈け落ちをするという紙きれ一枚だった。 一方みふねは、ジョーとの約束で人影のない競輪場で淋しく待っていた。しかしそこに現われた秋本に無理矢理連れ戻された。『ジョー助けて』と呼び続けるみふねの本心に意外な変化が起きた。それは、秋本が妹を売った腹讐を誓う男に刺されたからだ。 病院に収容され、傷の痛みに赤子のようにむづかる秋本を見て、みふねは『この人の傍に置いて、それでないと、この人は死んでしまう』と叫んで、人身売買の罪で秋本を捕えに来た刑事たちを驚かすのだった。 優しく介抱するみふねに不審を抱きながらも、秋本の心にはみふねのいじらしさがこんこんと湧いてくるのだった。秋本は刑ム所へ行く身だが、昔裏切った女への腹讐にと病院を抜け出していった。 『私を捨てないで...』というみふねの嘆願を振りきって…… だが秋本があった昔の女は落ちぶれて、秋本の心には何の感情も湧いてこなかった。 ジョーに裏切られ、秋本に捨てられ、いまはただ、『ジョニージョニー』と無遊病者のように歩き続けるみふねの足は、自然と自分の生れ故郷稚内に向っていた。 昔の板前に戻って由美の店で働くジョー、流しにやるせなさをまぎらす秋本、二人の男の心には、みふねの面影が強く魅がえってきた。 夕焼けに染まる海、決して裏切ることのない無限の海に、いまは生きるすべを失ったみふねが静かに歩を入れていった。この足跡を追って二人の男が駈けつけてきた。だがむなしく残る足跡にはみふねの悲しい生涯が刻まれていた。 二人の男は、みふねを死に追いやったお互いの憎悪をぶつけ合ったが、人間の復元しえないさすらいにも似た虚無の表情を浮かべながら虚脱したように、別れていくのだった

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