『新感染ファイナル・エクスプレス』『チェイサー』など、時代を先取るエッジーな作品を世に送り出してきたカンヌ国際映画祭の2017年ミッドナイト・スクリーニング部門にて大きな話題となり、批評家サイト、ロッテン・トマトでも驚異の96%という高評価を獲得した本作は、<生き地獄>と呼ばれた実在するタイの刑務所に服役し、ムエタイでのし上がっていったイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの壮絶な体験と魂の再生を描く。監督を務めたのは、『ジョニー・マッド・ドッグ』で世界的に評価されたジャン=ステファーヌ・ソヴェール。極限状態の中、孤軍奮闘する主人公ビリーにはアクションスリラー『グリーンルーム』やBBCの人気ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」で注目される、新星ジョー・コール。本作ではボクサー役を演じるために何ヶ月も肉体改造に励み、過酷な撮影に挑んだ。繊細な演技とハードなアクションの両方を見せつける熱演ぶりは、同じくイギリス人俳優のトム・ハーディを彷彿とさせる。他にも、N・W・レフン監督の『オンリー・ゴッド』で強烈な印象を残したヴィタヤ・パンスリンガムや、タイの伝説的なボクサーであるソムラック・カムシンなどが重要な役どころで出演するが、役者の大半は現地タイ人の元囚人たちが起用されており、彼らの体験に基づいた迫真の演技により、観客はあたかもその場にいるような感覚に陥ってしまう。この世の地獄に堕ちたアウトローが人間性をはく奪されながらも、ムエタイを通じて希望を見出していく本作は、ただのジャンル映画の枠には収まらない、パワフルな人間ドラマへと昇華されている。