名匠ウォルター・サレスが、長編映画として16年ぶりに祖国ブラジルにカメラを向けた本作は、軍事独裁政権下で消息を絶ったルーベンス・パイヴァと、夫の行方を追い続けた妻エウニセの実話に基づいている。サレス自身、幼少期にパイヴァ家と親交を持ち、この記憶を、喪失と沈黙をめぐる私的な問いとして丁寧に掘り起こした。自由を奪われ、言葉を封じられても、彼女は声をあげることをやめなかった。サレスは、理不尽な時代に抗い続けたひとりの女性の姿を、美しくも力強い映像で永遠の記憶として刻みつける。
主演はサレス作品の常連で名優フェルナンダ・トーレス。老年期のエウニセを演じるのは実の母であり『セントラル・ステーション』でブラジル人初のアカデミー主演女優賞候補となったフェルナンダ・モンテネグロ。母と娘、ふたりの女優が、記憶と時代、そして命の継承を映し出す。
本作は第81回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。第82回ゴールデングローブ賞ではブラジル人女優として初めて主演女優賞に輝いた。第97回アカデミー賞では、ブラジル映画史上初となる作品賞ノミネートを含む3部門に名を連ね、国際長編映画賞を受賞。やがてその静かな声は国境と歳月を超え、世界の記憶へと刻まれる。